【論文掲載】アレルギーの臨床 2016年8月臨時増刊号

論文タイトル 「 アトピー性皮膚炎の発症予防における抗炎症性 温泉藻類®RG92の有用性

医療専門誌「アレルギーの臨床 2016年8月臨時増刊号」に、サラヴィオ中央研究所・温泉藻類研究所 所長 加世田 国与士 が執筆した「アトピー性皮膚炎の発症予防における抗炎症性 温泉藻類RG92の有用性」が掲載されました。
本専門誌は、アレルギーに関する医学論文や、効果が期待できると認められる最新のアプローチ法などが掲載される医療界の参考書的存在の専門誌で、医師や医薬品開発者の多くが購読しています。

今回は新たに、2015年に炎症性疾患の治療・予防薬として特許を取得した「温泉藻類RG92」が注目され、アトピー性皮膚炎に対する温泉藻類RG92の有用性について、日本薬学会などで発表した内容を含め執筆させていただきました。
専門用語が並び、一般の方には解りづらい内容かとは思いますが、ひとりでも多くの方の参考になればとの思いで、執筆した全容をご紹介させていただきます。

論文掲載内容

Abstract

アトピー性皮膚炎の治療の一環で温泉治療を利用する患者も多いが、時間や経費等の負担が大きいことに加えて、効果の再現性や作用機序に関わる議論も絶えない。我々は、温泉に生息する藻類の一種RG92が抗炎症作用を持つことを見出した。別途、温泉由来の酵母はミトコンドリアのエネルギー産生力を高め、皮膚代謝を促進することが示唆された。
これらの温泉原料はアトピー性皮膚炎の寛解期維持を目指すProactive療法の一翼を担うことが期待できる。

はじめに

「温泉治療」と言えば、関節リウマチ、神経痛、アトピー性皮膚炎や乾癬等が思い浮かぶであろう。しかし、その長い歴史と比べて治癒効果における作用機序の解明は緒に就いたばかりである。
アトピー性皮膚炎は、「瘙痒のある皮疹を主病変とし、増悪・寛解をくり返すもの」とされる。ギリシャ語のAtopiaに由来し、「奇妙な」、「とらえどころのない」と言われるほど、患者はもとより医師や研究者にとっても悩ましい疾患である。治療ガイドラインとして「スキンケア」、「薬物療法」、「原因・悪化因子の除去」があげられ、炎症を抑える目的でステロイド薬などの抗炎症剤やタクロリムス軟膏などの免疫抑制剤、抗ヒスタミン薬などが使用されている。これらは適切な使用により有意な効果を発揮する一方、期待される効果が得られない患者や副作用、離脱作用を心配する患者がいることも事実である。半数近くの患者が「ステロイド薬を使用したくない」という精神的影響は無視できない。
このような社会的背景で、「安全・安心」かつ「作用機序が異なる」非ステロイド性の抗炎症剤の開発が望まれている。

1.温泉藻類

我々は、療養泉の多さで世界を圧倒する別府温泉地域を拠点とし、数百に及ぶ温泉微生物を採取・単離・培養して解析を進めてきた。その一つである新種の藻類(RG92と命名)が抗炎症作用を持つことを見出した。
まず、線維芽細胞を用いて、温泉藻類RG92の抽出物が一連の炎症性サイトカイン遺伝子の過剰発現を抑制することを証明した。

次いで、様々な炎症性疾患(関節炎、脱毛症、皮膚炎)の改善に有用である可能性を見出し、特許を取得した(特許第5676702号「藻類体から抽出したエキスを含有する組成物、及び化粧用組成物、炎症性疾患の治療・予防薬、並びに新規微生物」)。

アトピー性皮膚炎において、搔破による「炎症の進行」と「バリア機能の低下」の悪循環は深刻な問題であり、瘙痒の抑制は本疾患の発症・増悪の予防に非常に重要である。本疾患では、過剰に発現したNGF(神経成長因子)の作用によりC線維が表皮まで伸長する為、激しい痒みが引き起こされる。温泉藻類RG92は、NGF遺伝子の過剰発現を抑制することが判明した。更に、C線維を介して痒みを中枢に伝えるIL-31およびヒスタミン非依存性の搔痒誘導因子(TRPA1)の遺伝子発現も抑制された(表1)。

表1 温泉藻類RG92により発現が抑制された遺伝子

表1 温泉藻類RG92により発現が抑制された遺伝子

従って、温泉藻類RG92は掻痒の抑制作用も有することが示唆された。

一連の炎症メディエーターを誘導する因子に活性酸素がある。ミトコンドリア内のATP合成において、共役反応がうまく機能しないと過剰の活性酸素が産生される。その結果、NF-κBなどの転写因子を介して、種々の炎症因子が誘導される。温泉藻類RG92には活性酸素の量を減少させる作用が見出され、これが一連の遺伝子発現の抑制を惹起したと考えられる。

最後に、「水でも沁みる」と訴えるアトピー性皮膚炎や敏感肌で悩む方の要望として見逃せないのが「安全性」や「肌への優しさ」である。温泉藻類RG92は、細胞毒性試験、光毒性試験、復帰突然変異試験、パッチテストの全てにおいて陰性であり、安全性も確認された(エコサート原料登録認定)。

2.温泉酵母

アトピー性皮膚炎の原因は皮膚のバリア機能の低下にある。フィラグリン遺伝子の変異やIgE生産、Th2異常による先天的な要因と刺激因子や生活習慣等による後天的な要因に依存するものがある。重要なことは、「皮膚のバリア機能を高めることで、寛解状態を長く続けること」である。

我々は、健全な皮膚代謝を取り戻し、バリア機能を高める目的で、温泉由来の酵母に関する検討も重ねてきた。 温泉酵母を用いて調製した成分は、線維芽細胞におけるミトコンドリアの機能を高め(ATP合成能に優れた繊維型ミトコンドリアの量を増やす)、FGF-10等の細胞増殖因子の遺伝子発現を促し、遊走活性やオートファジーなどの細胞機能を増強し、健全なスキンターンオーバーを促すことを見出した。表皮細胞の正常な角化により、セラミドやフィラグリン等の天然保湿因子の産生が促され、バリア機能の向上が見込まれる。

3.ミトコンドリアを制御するケア

寛解期の長期持続にはスキンケアは必須である。我々は、温泉藻類RG92の作用で「過剰な活性酸素の発生を抑え(炎症を抑え)」、温泉酵母の作用により「ミトコンドリアのエネルギー生産力を高める(皮膚代謝を促進しバリア機能を高める)」スキンケアを推奨している(図1)。

図1 温泉藻類RG92を応用したスキンケアシリーズの例

図1 温泉藻類RG92を応用したスキンケアシリーズの例
A) スキンケア用品の例
B) OMB (Onsen Microorganism-Based)法
B) OMB (Onsen Microorganism-Based)法

ミトコンドリアは生と死を司る細胞小器官である。温泉由来の原料で、ミトコンドリアに ①悪さをさせない(過剰の活性酸素を作らせない)②元気にする(エネルギー生産を促す)ことで、炎症を抑え、皮膚の再生とバリア機能の向上を目指すことを勧めている。

皮膚の乾燥が激しい場合には、バリア機能を補う為にオイル等の使用が望ましい。このような関連品を用いて、抗炎症作用に関するボランティア被験者調査を実施したところ、痛み指数と痒み指数の改善が認められた。
浸出液、乾燥、落屑、紅斑を繰り返しながら徐々に症状が緩和され、長年に渡り寛解状態が続いている方々がおられる(図2)。

図2 温泉スキンケア(OMB法)による改善例

A)痛みレベルを10段階評価し、使用前後の差を改善指数とした。
A)痛みレベルを10段階評価し、使用前後の差を改善指数とした。
B) 痒みレベルを10段階で評価した。*, p < 0.05.
B) 痒みレベルを10段階で評価した。*, p < 0.05.

C) スキンケアが奏功した例 (使用期間:1年)

C) スキンケアが奏功した例 (使用期間:1年)

おわりに

治療ガイドラインであるにも関わらず、スキンケアを実施している患者は約半数という調査結果がある。その理由に、「効果の実感がない」、「刺激や使用感の悪さで継続的な使用ができない」などがあげられる。保湿・保護の重要性を理解しながら、オイルのべとつきやローションの刺激を嫌う声は多い。

また、強い界面活性剤による過度の洗浄や高濃度配合されたアルコールによる皮膚バリアの自己破壊も見逃せない。クレンジング、石鹸、シャンプー等の選択と使用方法には細心の注意を払うべきである。

遺伝的要因を伴う疾患では、根治を目指すよりも再燃を防ぐことが現実的であろう。その意味では、寛解期に頻度を減らしてステロイド外用薬を使う「Proactive療法」は、再燃後に薬物治療を再開する「Reactive療法」と比べるとベターな選択肢かもしれない。しかし、ステロイド薬の長期使用による副作用発現の可能性は否めず、患者の精神的な負担も危惧される。
抗炎症作用により再燃を防ぐと考えられる温泉藻類RG92の発見は、アトピー性皮膚炎や乾燥肌、敏感肌で悩む方々の福音となるであろう。

謝辞

当研究を行うにあたり、ご指導ご鞭撻を賜りました坂口力特任教授(東京医科大学・医学総合研究所)に厚く御礼申しあげます。論文作成に協力してくれた宮田光義首席研究員および御筆千絵主任研究員(ともにサラヴィオ中央研究所)に謝意を表します。

アレルギーの臨床 2016年8月臨時増刊号
アレルギーの臨床 2016年8月臨時増刊号2
アレルギーの臨床 2016年8月臨時増刊号3
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